逮捕された場合にできることできないこと

いや~あなたが素直に認めてくれてこっちも助かったよ! プログラミングとかに詳しかったらどうしようかと思っていたけどね

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最近日本だけでなく世界(?)をも騒がせている兵庫県警の無茶な逮捕劇ですが、ことセキュリティ業界に大きな打撃を与えていることをご存知でしょうか。
セキュリティに関する知見を共有する有名な勉強会であるすみだセキュリティの活動休止 (http://ozuma.sakura.ne.jp/sumida/2019/03/15/77/) をはじめ、詳細な手順を含んだ技術ブログの公開停止など業界全体の萎縮ムードがここ数日で加速しています。僕も自衛のために、公開していた技術系の記事のうち、日本語で書かれておりかつセキュリティに関するものを非公開にしました。
「なにをそんなに神経質になっているんだ」と思う方もいらっしゃるかもしれませんが、逮捕・起訴されてしまってからでは取り返しがつきません。一般的に前科と呼ばれるものは起訴されて有罪判決が下された場合に初めてつくものですが、逮捕された時点で前歴という扱いになります。そのため逮捕されても落ち着いて不起訴になるように動けば良いのですが、前歴というのは印象が悪いです。もし採用に際して「前科・前歴がある場合はあらかじめ申告してください」と言われた場合に、下手に隠すと経歴詐称になります。かといって前歴があることを正直に述べても、何もない人に比べると印象が悪くなるのは避けられないでしょう。いずれにせよ逮捕されないに越したことはありません。

では万が一逮捕されてしまった場合に一体どれほどのリスクがつきまとうのでしょうか?周りからの心証が悪くなるのは言うまでもありませんが、前科がついた場合に制限されるものの代表例としては、資格の取得と渡航があるようです。それぞれについてまとめてみました。

僕は法律に関して一切の素人なので内容については責任を持ちません。あしからず。

資格の制限

起訴および有罪が確定した時に特定の資格を保持している場合、その資格の剥奪・再取得制限がかかる場合があります。

参考: 前科と資格制限 - 【刑事事件専門】渋谷青山刑事法律事務所(東京都渋谷区)

対象資格 資格を制限する刑(とその期間) 効果 資格制限法条
医師 罰金以上の刑 1.免許を与えないことがある
2.免許の取消し又は3年以内の医業の停止の処分をすることができる
医師法
4条3号
7条2項
保健師助産師,看護師,準看護師 罰金以上の刑 1.免許を与えないことがある
2.免許の取消し又は3年以内の業務の停止の処分をすることができる
保健師助産師看護師法
9条1号
14条1項・2項
歯科医師 罰金以上の刑 1.免許を与えないことがある
2.免許の取消し又は3年以内の歯科医業の停止の処分をすることができる
歯科医師
4条3号
7条2項
歯科衛生士 罰金以上の刑 1.免許を与えないことがある
2.免許を取り消し,又は期間を定めて業務の停止を命じることができる
歯科衛生士法
4条1号,8条1項
獣医師 罰金以上の刑 1.免許を与えないことがある
2.免許を取り消し,又は期間を定めて業務の停止を命じることができる
医師法
5条1項3号
8条2項3号
薬剤師 罰金以上の刑 1.免許を与えないことがある
2.免許を取り消し,又は3年以内の業務の停止の処分をすることができる
薬剤師法
5条3号
8条2項2号・3号
学校の校長,教員 禁錮以上の刑 なることができない 学校教育法
9条2号
一般職の国家公務員 禁錮以上の刑(刑執行終了まで) 1.官職に就く能力を有しない
2.受験することができない
3.失職する
国家公務員法
5条3項2号
8条1項1号
38条2号
43条
76条
地方公務員 禁錮以上の刑(刑執行終了まで) 1.職員となり,又は競争試験若しくは選考を受けることができない
2.職を失う
地方公務員法
9条の2,3項,8項
16条2号
28条4項
取締役 会社法331条1項3号
に定める条件
(刑の執行終了後2年)、
それ以外の禁錮以上の刑
(刑執行終了まで)
なることができない 会社法
331条1項3号,4号
公認会計士 公認会計士法4条2号
に定める条件
(刑の執行終了後5年)、
禁錮以上の刑
(刑執行終了後3年)
1.なることができない
2.登録を抹消しなければならない
公認会計士法
4条2号・3号
21条1項3号
16条の2,1項・5項1号
税理士 禁錮以上の刑
(刑執行終了後5年)
国税地方税に関する法令
(3年)
税理士法の罪による罰金の刑
(刑執行終了後3年)
1.資格を有しない
2.登録を抹消しなければならない。
税理士法
4条4号・5号・6号
26条4号
一級建築士 禁錮以上の刑,
建築士法に違反し
又は建築物の建築に関する罪を
犯し罰金の刑
(刑執行終了後5年)
1.免許を与えない
2.免許の必要的取消
建築士法
7条3号・4号
8条の2第3号
9条1項2号・3号
8条1号・2号

定められる罪を犯した場合に、再度資格を得ることができるのかできないのかを一覧にすると以下のようになります。(△は必ずしも取得できるわけではないということを意味します)

資格 再取得の可否
医師
保健師助産師,看護師,準看護師
歯科医師
歯科衛生士
獣医師
薬剤師
学校の校長,教員 ×
一般職の国家公務員 ×
地方公務員 ×
取締役 ×
公認会計士 ×
税理士 ×
一級建築士 ×

意外なことに、医療系の資格は必ず取得を拒否されるわけではありません。一方で教員や公務員、取締役などの資格は禁錮以上の刑を課せられた場合は決められた期間をすぎるまで再取得を拒否されるようです。
なお、他に取得を制限される資格の例としては以下のものがあります。

詳しい条件はそれぞれの資格に関する法に定められていると思いますが、調べるのが面倒なのでここでは割愛します。

渡航に関する制限

エンジニアの皆さんは資格制限よりもこちらの方が困ると思います。前科があるとどのような制限があるのでしょうか。

旅券(パスポート)の発行制限

パスポートの発行に関しては旅券法13条に定められています。このうち、2号および3号には以下のように定められています。

  • 死刑、無期若しくは長期二年以上の刑に当たる罪につき訴追されている者又はこれらの罪を犯した疑いにより逮捕状、勾引状、勾留状若しくは鑑定留置状が発せられている旨が関係機関から外務大臣に通報されている者 (2号)
  • 禁錮以上の刑に処せられ、その執行を終わるまで又は執行を受けることがなくなるまでの者 (3号)

不正指令電磁的記録に関する罪は3年以下の懲役または50万円以下の罰金のため、もし2年以上の刑が課された場合はパスポートが発行できなくなりますし、禁錮以上の刑(禁錮・懲役・死刑)に該当する(刑法9条・10条)ため、最大3年パスポートが発行できないことになります。1

渡航制限

日本は世界中の国と比べると比較的渡航に関する制限が緩く、短期滞在であればほとんどの国にビザ無しで入れるようになっています。しかし、アメリカ・カナダ・オーストラリアにおいてはいかなる場合でも渡航に際して電子渡航認証を事前に取得する必要があり、それぞれESTA, eTA, ETA (ETAs)と呼ばれています。これはそれぞれの国独自の入国許可証みたいなもので、Webから簡単に申請することができます。場合によりますが実際に承認されるのもせいぜい72時間とされており、それほど手間ではありません。

アメリ

アメリカでは逮捕歴があるとビザなし渡航ESTAによる渡航)が許可されておらず、必ず事前にビザの申請を行わなければなりません。ESTAは申請から3日が目安と言われており、申請自体は料金の支払いを含めてWebのみで完結します。しかしビザを取得する場合、種別にもよりますが、必要な書類を用意した上でアメリカ大使館で面接を受け、さらにそこからビザつきパスポートが発送されるまで一週間程度待つ必要があります。例えば「来週アメリカ出張が入った」というケースにおいて、有効なビザを持っていない場合は逮捕歴がある時点で出張をキャンセルしなくてはならないということです。

カナダ

カナダの場合は犯罪歴があってもeTAを申請することができるようですが、実際に承認されるかどうかはカナダ大使館側の判断次第のようです。しかし申請フォームには犯罪歴に関する記入欄があり、正直に申告する必要があります。

オーストラリア

オーストラリアのETA (ETAs) の申請要件には「刑期の合計が12ヶ月を越える有罪判決(実刑・執行猶予に関わらず)を受けていないこと」とあり、一定の犯罪歴があるとビザの申請が必須のようです。しかしオーストラリアの場合、ビザの申請はオンラインで可能で、必要な書類なども電子データによる送付が認められています。ビザの発給までの期間の目安としては一週間とされており、アメリカに比べると比較的手軽にビザを取得することができるようです。

電子渡航認証の申請可否をまとめると以下のようになります。

渡航 逮捕歴有り 犯罪歴有り
アメリ × ×
カナダ △ (拒否される場合もある) △ (拒否される場合もある)
オーストラリア △ (12ヶ月を越える有罪判決を受けていない場合は申請可能) ×

その他のビザ無し入国が可能な国については、特に制限は無いようです(全ての国を詳しく調べたわけではありません)。とはいえ、入国カードに犯罪歴を記入する欄があった場合は正直に書いた方がよいです。後になって詐称が発覚すると、入国審査官に軽く詰め寄られる比ではないトラブルに発展するかもしれません。

その他

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まぁ懲役3年罰金50万以下なんだけど、あなたは初犯だから略式起訴で罰金30万になるだろうな

とありますが、略式起訴は被疑者の同意無しには成り立たず、同意した場合は罪を認めることになります。略式命令の告知を受けた日から14日以内は正式裁判の請求を行うことができますが、取り下げないで略式手続が成立した場合は有罪が確定するので前科がつきます。早く社会に復帰できる一方で前科がついてしまうので、先にあげたようなデメリットなどをよく考えて、普通の裁判で戦うかどうか決めた方が良いと思います。

まとめ

  • 禁錮以上の刑が課せられると大半の資格が取り消し、再取得可能になるまで時間がかかる
  • 逮捕歴が発生した時点でアメリカへESTA渡航できなくなる
  • 12ヶ月を越える有罪判決を受けるとオーストラリアへETA (ETAs) で渡航できなくなる

世知辛い世の中になってしまいました。TokyoWesternsとしての活動を制限するつもりは全くないですが、しょうもない理由で逮捕されないように気をつけたいですね。

参考文献


  1. 執行猶予がついた場合も刑の執行を保留されているだけで有罪判決を言い渡されたことに変わりはないので、同様に制限されます。